#医師のしごと
病院から在宅へ! 在宅6年目の医師が「自宅で自分らしく」について語る。
病院から在宅へ
在宅6年目の医師が語る
「自宅で自分らしく」とは?
こんにちは。
広報の由井です。
TEAM BLUEは、患者さんにとって「自分らしく」とはなにかを想像する医師の成長をサポートしています。
今回は、病院から在宅医療にキャリアチェンジした循環器内科の水落先生に、在宅医の経験をどのように積んでいったのか、病院とのギャップ、ご自身の成長、これからの展望について、お話を伺いました!
▼水落 (みずおち) 先生
前職は循環器内科で外来を担当。東日本大震災の際に感じた「医療従事者を必要としている現場で働きたい」という想いから、在宅医を目指し、2017年にやまと診療所へ入職。
やまと診療所に入職したきっかけは?
在宅医療を安心して学べる環境を探していた所、知り合いからやまと診療所を紹介していただいたんです。
当時、院長だった安井先生(現TEAM BLUE代表)と面接し「うちだったら各科も揃ってるし、在宅医療が初めての先生でもサポートしますよ」と言ってくれたのが決め手でしたね。
入職した当初は「急いで色んなことを覚えなきゃいけないのかな……」と焦りがあったのですが、全然そんなことはなかったです!
むしろ先輩の方から「在宅医療を修得するには二年かかるよ〜」と言われて、ここでじっくり学んでいこうと決めました。
入職当初はどういう風に過ごされましたか。
最初は週3日勤務の内の1日を学びの時間とさせてもらいました。
丸1日、緩和ケアの柳澤先生に同行して、在宅医療の基礎知識、患者さんとの接し方、診断・処置などを見て、聞いて、学び、たくさんの質問に答えてもらって、あの楽しい時間は今でも憶えています!
当時の私は、とにかく診療が遅くて、患者さんやスタッフに迷惑をかけていたのですが、どんなに遅く帰院しても、みんなが温かく迎えてくれました。
あの「おかえりー!」は、一生忘れられませんね。
帰院後は皆で集まって申し送りしました。在宅医療について分からない点は、そこで聞きましたね。
在宅で使える制度や、そのケースならこうすることもできるよ、など具体的なアドバイスを貰って、本当に勉強になりました!
褥瘡を見るのも初めてで、どう処置すればいいのかが分からず、訪問先から診療所にいる安井先生(現TEAM BLUE代表)に電話したのが懐かしいです。
患者さんを待たせてはいけないので、急いで安井先生に電話して、在宅医療PA®にiPadで褥瘡を映してもらいつつ、適切な処置の仕方を教えてもらいながら、ようやく診療を終える……、慌ただしい毎日でしたね。
今でも他の先生を頼ることはありますか。
在宅6年目になりますが、様々な領域の先生に相談させて頂いています。
緩和ケア専門医の先生には、癌末期患者さんに対する緩和ケアやACPについてよくご意見を伺っています。最近も比較的若い癌末期の患者さんの疼痛コントロールに難渋したので、オピオイドスイッチや薬剤の調整を丁寧に教えてもらったばかりです。
その先生は診療しているエリアが異なるため、対面でのご指導は難しいのですが、相談のメールを送ると、丁寧にかつ緩和ケア全般的なお話が返ってくるのでとても勉強になります。
やまと診療所には、外科・内科・緩和ケア・神経内科・消化器内科・腎臓内科・血液内科・呼吸器内科・泌尿器科・形成外科・循環器科内科と、ありとあらゆる科の先生が在籍しています。
どの先生も快く相談に乗ってくれるので、ひとりで悩むことはありません。
在宅医療を経験して、以前とのギャップはありましたか。
今までは疾患を通して患者さんを診ていたな、と気づきました。
「心臓の病気を持っている患者さん」といった風に。
患者さんがご自宅にいる時間は「病気の話」が出てこないんですよ。
診療中なのに、患者さんがテレビを見始めたり、煙草を吸ったり、とにかく自由にされていて、生活空間にお邪魔しています。
私達とする会話も、昨日お出かけした場所や今日のごはんやデイサービスでのお話ばかりで、「自宅」という空間では、患者さんは病気を意識していないのだ、と感じた瞬間でした。
ほとんどの方が「生活」をメインに考えていて、今では「診療」というより「“ひと”をみさせていただく仕事」という感覚を持っています。
先日、とある患者さん(以下、Aさん)に驚かされたことがありました。
Aさんは寿司職人だった方で、ある日、「先生、まぐろが見えます。あ、いくらも出てきましたよ」とおっしゃり、宙に浮かぶお寿司を目で追っていました。
せん妄の症状だったのですが、熱心に説明して下さるので、その方が頑張って生きてきた時間を思い出されているのだなと、思わず嬉しくなってしまいました。
せん妄は薬剤を投与しコントロールすることが多いのですが、このせん妄は本人にとって苦痛がないものと考え、薬は処方しませんでした。
ご家族「幻覚が見えているようで……」 Aさん「先生、僕はお寿司を見ててもいいんでしょうか?」 水落「見てていいと思います。Aさんが一生懸命に生きた時代が見えているのではないでしょうか」 ご家族「あ! そう思えばいいんですね」
それまでの私は、「その人の過去を知りに行く」なんてしてきませんでした。
患者さんのご自宅を訪問してお話を聞いてると、患者さんが今までどう生きてこられたのか、その人について色々と知る機会があります。
患者さんの思いを知り、寄り添いやすい環境があるため、在宅医療はACP(意思決定支援)がしやすいんだと感じます。
私たちが行っているACPは、患者さんから発せられた言葉を拾い、思いをそのまま受け止めて、どう生きていきたいかをご家族と多職種を巻き込んで、一緒に考えることを大切にしています。
在宅医療は、患者さんの人生を黒子として支えるようなイメージが近いです。
仕事というよりライフワークに近いのかもしれません。
辛い時もありますが、心が温かくなる瞬間が沢山あって、喜びをもって取り組んでいます。
在宅医療で大変だと思うことはありますか?
不安や辛さを安心に変えるのが私たちの仕事なのですが、患者さんの気持ちが揺れている時、不安や辛さが増している時は大変だなと感じる時もあります……。
時には、患者さんたちの持つ悩みに答えを見出せない時も。
それでも、一緒に悩み、「安心してもらうには、私たちに何ができるだろう」と診療チームで考えるのです。
一緒に悩み、最終的に温かい看取りに繋がった時は「悩んで良かった」と心から思います。
患者さんやご家族が不安な状態だと、「患者さんらしく」に基づいた意思決定が難しくなる場合があります。
例えば「本人は家にいたい。しかし、本人が苦しがって、その様子を見ていられなくなった家族が病院に連れて行ってしまう」というケースがあります。痛みや苦痛がある患者さんに、緩和ケアの薬を処方し、家族も安心して自宅で過ごせるよう日々工夫して診療しています。
そのような工夫やACPを積極的に行い、やまと診療所は高い自宅看取り率を得られているのではないかと思います。
今後、挑戦したいことはありますか?
三年前、地域病院の先生と企業さんと協力し「最期まで心不全を診る!戦略作りの会」を立ち上げました。
どうすれば最期まで心不全患者さんを地域で支えられるかを地域を巻き込んで話し合い、仕組みづくりに挑戦しています。
心不全の緩和ケアは、まだ浸透していません。
現在、終末期心不全患者さんのおよそ8割が病院で亡くなっています。それに対し、自宅で最期まで過ごしたい方が5~7割いらっしゃる……このギャップは何だろう、と疑問に思ったのが、心不全緩和ケアに興味を持ったきっかけでした。
心不全は終末期かどうかの判断が難しく、また管理にある程度専門性や経験が求められるため、具合が悪くなると病院に搬送されるケースが多いのが原因と思われます。
しかし、生活からみた心不全コントロールにより再入院を防ぐことができましたし、心不全であっても地域病院と連携し自宅看取りが可能であった症例も経験しました。
課題もありますが、地域の多職種が連携すれば、心不全の患者さんが自宅で最期まで過ごせる未来もそう遠くないと考えています。
また、患者さんの意思は状況によっても変わります。その都度、患者さんの希望にあわせた治療を選択できるように地域で取り組む必要があるとも感じています。
最後に、皆さんに向けてメッセージをどうぞ。
TEAM BLUEは、患者さんらしさを大切にする温かい地域医療を目指しています。
その人らしい生活、生き方を支えられるのは「ひと」として、「喜び」を持って働ける貴重な経験だと思います。
人生の先輩(患者さんとご家族)から学ぶことも多く、自分の人生観が変化していくのが楽しいです!